妊娠初期の仕事 — つわりと両立するためにできること

この記事の目次
  1. つわりは「気合い」で乗り切るものではない
  2. 知っておきたい制度:母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)
  3. 法律で守られている妊婦の権利
  4. 職場への伝え方
  5. つわりの時期を乗り切る工夫
  6. こんなときは医師に相談を
  7. まとめ

妊娠初期のつわりは、本当につらいものです。吐き気で朝起き上がれない、通勤電車の匂いで気持ち悪くなる、仕事中にどうしてもデスクに伏せてしまう――そんな日が続くと、「このまま仕事を続けられるだろうか」と不安になりますよね。

でも、つわりの時期に働く妊婦さんを守るための制度はちゃんとあります。この記事では、使える制度と、つわりと仕事を両立するための具体的な工夫をお伝えします。

つわりは「気合い」で乗り切るものではない

まず大前提として、つわりは体の仕組みによるものであり、気持ちの問題ではありません。2023年にNature誌に掲載された研究では、胎盤から分泌される「GDF15」というタンパク質が脳に作用して吐き気や食欲不振を引き起こしていることが明らかになっています。

妊婦の約50〜80%がつわりを経験するとされ、その程度は人によって大きく異なります。「周りの人は普通に働いていたのに自分は…」と自分を責める必要はまったくありません。つわりの症状や対処法について詳しくはつわりガイドもあわせてご覧ください。

知っておきたい制度:母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)

母健連絡カードとは

母性健康管理指導事項連絡カード(通称:母健連絡カード)は、産婦人科の医師や助産師が、妊婦さんの症状に応じて職場に必要な配慮を伝えるための公式な書類です。いわば「妊産婦のための診断書」のようなものです。

男女雇用機会均等法第13条に基づき、事業主はこのカードに記載された指導内容に応じて、適切な措置を講じる義務があります。

どんなことを指示してもらえるの?

つわりに関しては、以下のような措置を指示してもらうことができます。

  • 休業(入院加療・自宅療養)
  • 勤務時間の短縮
  • 通勤の緩和(時差出勤、混雑を避けるための時間変更など)
  • 休憩時間の延長・回数の増加
  • 身体的負担の大きい作業の制限
  • つわり症状を悪化させる環境での作業の制限(強い匂い、換気が悪い、高温多湿など)

つわりの場合、おおむね妊娠初期から16週頃までを目安に、医師が期間を設定します。

もらい方

  1. 妊婦健診やつわりの相談で産婦人科を受診する
  2. 医師や助産師に「仕事がつらいので母健連絡カードを書いてほしい」と伝える
  3. カードに指導事項を記入してもらう
  4. 職場(上司や人事担当者)にカードを提出する

カードの様式は厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできるほか、母子健康手帳に様式が掲載されている自治体もあります。

大切なポイント: 「こんなことで休むなんて…」とためらう方も多いのですが、この制度は法律で保障されたものです。つらいときは遠慮なく活用してください。

法律で守られている妊婦の権利

男女雇用機会均等法と労働基準法により、妊娠中の女性労働者には以下の権利が保障されています。

妊婦健診のための時間確保(均等法第12条)

事業主は、妊婦が医師の健診を受けるために必要な時間を確保しなければなりません。

  • 妊娠23週まで:4週間に1回
  • 妊娠24〜35週:2週間に1回
  • 妊娠36週〜出産:1週間に1回

医師の指導事項を守るための措置(均等法第13条)

母健連絡カードなどで医師から指導があった場合、事業主はそれに従った措置を講じる義務があります。

不利益取扱いの禁止(均等法第9条)

妊娠・出産を理由とした解雇、降格、減給、契約の打ち切りなどは法律で禁止されています。妊娠を報告したことで不利益な扱いを受けた場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。

危険有害業務の就業制限(労基法第64条の3)

妊娠中の女性は、重量物の取り扱いや有害物質を扱う業務など、一定の危険有害業務に就かせることが禁止されています。

軽易業務への転換(労基法第65条第3項)

妊娠中の女性が請求した場合、事業主は他の軽易な業務に転換させなければなりません。

職場への伝え方

いつ、誰に伝える?

つわりが仕事に影響しているなら、安定期を待たずに早めに直属の上司に伝えることをおすすめします。黙って我慢していると、「体調が悪いのにサボらない人」ではなく、「パフォーマンスが落ちている人」と見られてしまうこともあります。

伝え方のコツ

  1. 事実を簡潔に伝える 「妊娠がわかりまして、今つわりの症状があります」

  2. 具体的に何がつらいかを説明する 「朝の吐き気がひどく、通常の出勤時間に間に合わないことがあります」

  3. 配慮してほしいことを明確にする 「しばらくの間、時差出勤や在宅勤務をさせていただけると助かります」

  4. 期間の見通しを伝える 「つわりは一般的に16週頃までに落ち着くことが多いと言われています」

母健連絡カードがあると、「個人的なわがまま」ではなく**「医師の指導に基づいた正当な要請」**として受け取ってもらいやすくなります。

つわりの時期を乗り切る工夫

通勤のつらさを軽減する

  • 時差出勤:ラッシュの時間帯を避けるだけでも楽になることがあります
  • 在宅勤務:可能であれば活用しましょう
  • 座れる電車を選ぶ:少し遠回りでも、各駅停車で座って通勤する方が体は楽です
  • 匂い対策:マスクをする、好きな香りのハンカチを持つ

職場での過ごし方

  • こまめに間食する:空腹はつわりを悪化させやすいです。デスクに食べやすいものを常備しておくとよいでしょう(クラッカー、ゼリー飲料、飴など)
  • 水分補給:少量ずつこまめに。炭酸水が楽だという方も多いです
  • 休憩をしっかりとる:つらいときは無理せず休憩室で横になるなど、体を休めてください
  • 換気:匂いがこもるとつわりが悪化しやすいので、可能であれば席の近くの窓を開ける

無理をしないことも「仕事」のうち

つわりの時期に100%のパフォーマンスを出そうとすると、体にも心にも大きな負担がかかります。この時期は**「最低限のことができていれば十分」**くらいの気持ちで大丈夫です。

つわりが重くてどうしても出勤できない場合は、有給休暇のほか、会社の傷病休暇制度が使えるケースもあります。また、母健連絡カードで「休業」の指示が出れば、それに基づいて休むことができます。

こんなときは医師に相談を

以下の症状がある場合は、つわりが重症化している(妊娠悪阻)可能性があります。無理をせず、早めに医療機関を受診してください。

  • 水分もほとんどとれない状態が続く
  • 体重が急激に減少している(妊娠前から5%以上の減少が目安)
  • 尿の量が極端に少ない
  • 立ち上がるとめまいやふらつきがある

妊娠悪阻は治療が必要な状態で、点滴や入院による対応が行われることもあります。「つわりで病院に行くなんて大げさ」と思わず、つらいときは頼ってください。

まとめ

妊娠初期のつわりと仕事の両立は、多くの妊婦さんが悩むテーマです。でも、母健連絡カードをはじめ、法律で守られた制度がちゃんとあります。

つらいときは我慢せず、まず産婦人科で相談し、必要であれば母健連絡カードを活用してください。「制度を使うこと」は決して弱さではありません。赤ちゃんと自分の体を守るための、大切な行動です。

職場に伝えるのが気まずいと感じるかもしれませんが、早めに状況を共有した方が、結果的にお互いにとってスムーズなことが多いです。一人で抱え込まず、周囲の力を借りながら、この時期を乗り越えていきましょう。


参考情報: この記事は、厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」、男女雇用機会均等法、労働基準法の情報をもとに作成しています。職場での対応に困った場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。